2016年10月14日金曜日

お磯物語②

MC海苔は、ご飯とスタジオで新曲を作っていた。
しかし、なかなかアイデアが浮かばない。
心の中がもやもやとして曲作りに集中出来ないのだった。
すると、ご飯は、MPC2000から手を離し
「昨日のおかゆのライブ、超ハンパ無かったよな」
しみじみとつぶやいた。
MC海苔は、もやもやがイライラに変わった。
「あ?そうか?俺は全然ピンとこなかったけどな。つーか、あんなぼんやりしたシャウトカマされたら萎えるわ。つーか、食欲なくなるつーか」
ご飯は黙った。
「なんだよ。どうした?」
「なあ、俺たち、おにぎりにならないか?」
「どういうことだよ!」
「今のスタイルじゃ、ダメなんじゃないかな」
MC海苔はご飯を睨んだ。
「何がダメなんだよ!つーか、おにぎりとかダセえこと出来るかよ」
ご飯は真っ直ぐにMC海苔を見た。
「実は、俺、メジャー農家さんから声かかってんだ」
「マジか…。どこのレーベルなんだよ?」
「ササニシキだよ」
「マジか…」
「ササニシキになれば味があっさりしてるから色んな料理になれる。お寿司とかになれるんだ。なにしろササニシキは病気に強いから生活が安定するし。俺、もう若くないから、このまま保証のないインディーズのお米じゃいられないよ。なあ、俺とおにぎりになろうぜ。そうすればお前だってもっと大きいステージに…」
「ごめんだね。俺はセルアウトしねえ。お前1人でメジャーに行けよ」

ご飯の良さを一番分かっているのは自分だと思っていたMC海苔はショックを受けた。
いや、とうとうこの時が来てしまった。
元々、ご飯は海苔と一緒にいなくても引く手数多な食材だ。
ご飯のすべてを包み込むおおらかさと優しさに甘えていた。

「海苔。お前は最高だよ。でも…ごめん。俺は自分の可能性を試したい」

MC海苔は、悔しさ以上に自分の無力さに言葉が出なかった。

明日からは、1人だ。