2015年8月19日水曜日

バンドやろうぜ⑤〜ウインナー編〜

「愛した女がいたんだ」
ライブの終盤でシャウエッセンは客席に語りかけた。
ウインナー達のライブは、熱狂的に盛り上がっていた。
100人ほど入るライブハウスは株の繋がったぶなしめじのように客がぎゅうぎゅうに集まり、皆興奮していた。男はウインナー達のジューシーな演奏に陶酔し、女はシャウエッセンのパリっと破けた腹筋に瞳を潤ませていた。

「愛した女が、死んだ」
シャウエッセンの告白にライブハウスは静まりかえった。
「昨日のことさ。俺は今日のライブのことで頭がいっぱいだった。気がつくと、
あいつ、2時間も風呂に入ってやがってさ。トマトが2時間も風呂に入ってたらどうなる?そうさ。俺が慌てて駆けつけた時にはもう、スープになってやがったんだ」
客席からは小さな悲鳴やすすり泣きが聞こえた。
「あいつは、息もたえだえで俺にこういった。『さあ、トマトスープに浸かってポトフになってね。美味しいウインナーになって、明日のライブがんばってね。』って」
会場中から泣き声が聞こえたがシャウエッセンは泣かなかった。
塩分は昨日、トマトスープの中にすべて置いてきた。

「俺は今まで、独りよがりで生きてきた。でも違うよな。色んな人に支えられてきたんだよな。身をもってトマトが教えてくれたよ。そんなトマトに、そして今までこんな俺にかかわってくれた人達にこの曲を捧げます!」

シャウエッセンが叫ぶとドコドコとドラムが鳴り出した。

「今日来てくれた皆ありがとうな!俺が昨日浸かったポトフがあるから一人一杯持って帰ってくれ!」
シャウエッセンの粋なサービスに客席が湧いた。
感動と、美味しそうなトマトの香りは天までのぼっていった。