2014年11月25日火曜日

幽霊会議⑥

神さまが落としてしまったもう一つのおにぎりは、真っ逆さまに落ちてゆき
立ち往生していたタカシの車のボンネットに「ずごん!」とぶちあたった。

「ぎゃああ!」
タカシは心臓が破裂しそうなほど驚いた。

誰だ? こんな所で怪奇現象とか…マジで勘弁してくれ!

タカシは震える手でやっとのことエンジンをかけ、元来た道を車を走らせた。
そして、憔悴しきった様子で典子がいるキャンプ場へ戻ってきた。
典子は、すっかり小さくなっていた炎のそばに座り、小さい木の葉を拾っては炎の中に投げ入れていた。

「典子…ごめん。俺が悪かった」

タカシは典子の隣にこしをおろす。
典子はぷいと立ち上がると車の方へ行ってしまった。
しばらくの沈黙の後、典子が声をあげた。
「やだ…タカシ…おにぎり買ってきてくれたんじゃない」
典子はボンネットにめり込んだおにぎりを嬉しそうに取り出した。

「なんだって?」
タカシが典子の元に駆け寄ると典子はおにぎりを高らかに手にしている。
「タカシ、ごめんね。私、ワガママだよね…でも私のために…おにぎり買ってきてくれたんだね」
「本当だ…」
「ん?」
「いや…うん…そうだね。おにぎりだ」

タカシは典子をそっと抱きしめた。そして、優雅におにぎりを火に焼べた。
二人は、チークダンスを踊りながら再び焚き火の近くに戻った。

それを、空から全員が見ていた。

「いいわけ?あれ、あんたの元彼でしょ?」
と黒装束女が久美子に言った。
「あんたの元彼。マジでしょうもないわね!」
お姉さんも呆れている。
「彼氏さんですか? 僕、何かよくないことしてしまったかな?」
神さまは、涙目で久美子を見ている。
「い、いえ!そんなそんな!全然大丈夫なんで、気になさらないでください!」
久美子は、元彼、タカシのことより神さまがこんな近くにいることで心臓が動きだしてしまいそうだった。
「そうだよ〜。神さまのせいで久美子の彼氏、彼女と仲直りしちゃったじゃん!」
お姉さんが神さまをこずく。
「わざわざ、見なくていい場面よね」
黒装束女も久美子に同情してくれた。
「久美子、落ち込んでんじゃん!神さま、責任取ってあげなよね!」
お姉さんが神さまの肩をばしばしと叩く。
「うう〜。ご、ごめんなさい。ど、どうしよう。僕、どうしたらいいですかね?」
神さまはがっくりとうな垂れる。
久美子は、もう完全に神さまに恋をしてしまった。元彼のことなど心底どうでもよかった。
「あ、あ、あの…もういいですから…」
お姉さんが久美子の口を塞ぐ。
「ビールでもおごってやんなよ〜」
神様は申し訳なさそうに頭を下げ
「もちろんです〜。いくらでもおごります〜」
とポケットからゴヤールの長財布を取り出した。
「え!そんな!いいです!」
「いいって。神さまお金持ってんだからおごってもらいなよ!今日はもういいから」
とお姉さんは、久美子の背中から米俵を受け取った。
「いいんですか?」
「もちろんですよ。じゃあ、行きましょうか?」
「あ!はい!!」
「この辺にオシャレなカフェが二軒ありますので…スイーツが充実している方にいきましょうか…」
「はい!」

久美子は、甘い恋の予感を体中で感じていた。

天国で天国気分。最高だわ!

その頃、焚き火の周りでチークダンスを踊る久美子の元彼、タカシと彼女も
幸せそうであった。


裸のおにぎりは、黒く焦げていき誰も気がつかなかった。



おしまい