2014年9月11日木曜日

幽霊会議⑤

「おーい!喧嘩はやめなさい!」
神さまが、一声出すとその場にいた全員が喧嘩をやめて
神さまの元に集まった。

すごい。さすが神さまだわ…。初めてお会いしたけど…か、かっこいい!

久美子は感激した。
神さまは、白い半袖Tシャツにカーキ色でゆったりめの麻のパンツをラフに履きこなしていた。浅野忠信さんみたいと久美子は頬を赤らめた。無精髭なんか生えてるのに甘い香りがする…

「なんだよー? 何、揉めてんの?」

「この人たちがおにぎり屋を作るのをじゃまするんです!」
お姉さんは、髪の毛をぐちゃぐちゃにされたまま神様に訴えた。
黒装束女もお姉さんを押しのけて神様に訴える
「こいつぅ。一人で勝手なことしてんだ!幽霊の秩序を著しく乱してんだよ!」

「おにぎり?」
神さまは、眉毛をぴくっと動かした。

「いいじゃん?」
お姉さんの顔はパァっと明るくなる。

「ありがとうございます!」

「うん。今、食べられる?」

「え!あ、はい!」

「やったー」
と神さまが喜ぶと、黒装束軍団が引き連れてきた雲がもくもくと椅子とテーブルに
変身した。

お姉さんと久美子は腕まくりをして準備にとりかかる。その様子を黒装束軍団は悔しそうに見ている。

最初のお客さんが神さまなんて幸先いい。
二人は緊張と興奮で手が震えた。

「二つね」

「はいィ!かしこまりィましたァァ!」

お姉さんが慣れた手つきで塩むすびを握っている間、久美子は海苔を適当な大きさに切り

「海苔はサービスです!お好きなだけおにぎりに巻いてください!」

とテーブルに置いた。

続いてお姉さんがおにぎりを持ってきた。

「お待たせいたしました!」
お姉さんの結んだ三角のおむすびは、テーブルの上でキラキラと輝いた。

「うおー!美味しそう」
神さまは、おにぎりを一つ手に取り米が見えなくなるまで海苔を巻いた。
そして、
「ほら。君も機嫌なおしてさ。黒が好きなんだね」
と黒装束女に近づいた。そして、女のおでこに三角の海苔結びを当て
「似合うよ〜〜」
とおちゃらけ、その場にいた全員のハートを打ち抜いた。

「あ、あ、あ」

黒装束女は、言葉にならず真っ赤な顔で海苔ぬすびを受け取った。

「そんで、白い方のおにぎりは…」
といいながら神さまはテーブルの上のもう一つのおにぎりを掴もうとした。

その瞬間、風がなびいて雲のテーブルが傾いた。

「ああ!」

みるみるうちに白いおにぎりは、空の下に落ちていった。

「ごめんなさい。白いのは君たちにあげようと思ったのに…」
とお姉さんと久美子を見た。

「いいいいいいいいいいいですいいですいいです!!!」
二人はずぶ濡れのブルドッグほど顔を振った。
「また、作ればいいんですから!」

「ううう。オレってドジだな。最初のおにぎり食べてもらって仲直りしてもらおうと思ったのに…」

神さまががっくりとうな垂れると、

「仲なおりしますします!」
と黒装束女が飛んできた。
「ホントォ?」
神さまがうっすら涙ぐむと
「本当です!ほら!」
と黒装束女とお姉さんは笑顔で抱き合った。
「もう、喧嘩しないでね」

「はいィィィィ!」

その場にいた全員が声高く叫んだ。

2014年9月5日金曜日

幽霊会議④

雨雲がどんどん近づいてくると、それは雨雲ではなく白い雲の中に黒装束を纏った女の人達が埋もれているのだった。

久美子とお姉さんの前にやってくると、女の人達は、雲からふわっと離れた。

「あんた。マジでウザいんだけど」

黒装束軍団の、総長がお姉さんに掴み掛からんばかりに近づいた。

久美子は、驚いた。

あんな色の装束…どこで売ってるの!?私が、ハンズに買いに行った時には売ってなかったよ!かっこいい…。あんな、黒装束で脅かされたらどんな人間だってイチコロね…。

「あんたこそ、いつも私のじゃまをして何なのさ?」

お姉さんも負けていない。黒装束女の肩を乱暴に突いた。

「何すんだよ!このやろう!」

黒装束女が金切り声をあげ、チーターのように牙をむき出したのを合図に
周りの黒装束軍団がお姉さんを囲み、殴りかかった。

「なんでよっ!なんでっおにぎり作っちゃいけないのよっ!」
お姉さんは、泣きながら黒装束軍団に掴み掛かる。
空は、大変な騒ぎになってしまった。

久美子は携帯電話を取り出した。

この場を収めてくれる人を呼ばなくちゃ…誰…誰を呼べばいいの…

携帯電話の連絡先を震える指で触る。

そして、『神さま』の電話番号で指が止まる。

神さま!に電話していいのかな!

携帯電話を登録した時に、デフォルトで神様の連絡先が登録されている。
しかし、友達ではないのでこちらから連絡することはない。
よほどのことがない限り…

「今がよほどのことよ!えい!」

久美子は思い切って神さまに電話をかけた。